TOPページ IBCレポート 放送システムの次代コンセプト「データの流れを止めるな!」

IBCレポート
放送システムの次代コンセプト
「データの流れを止めるな!」

レポート:吉井 勇 本誌編集部

 オランダ・アムステルダムで9月14日から開催された国際放送機器展IBCに、本誌ツアーメンバー30人とともに参加した。ツアーはロンドンにも立ち寄り、ITV、Channel 4の放送局をはじめ、CM考査機関のクリアキャスト、CMオンライン運用のグループIMD、DAZNを展開するパフォーム、コンテンツ搬入の規格づくりを進めるDPP、動画配信CDNのアカマイ テクノロジーズ、広告挿入技術のYoSpaceを訪問し、次世代の放送システムとサービスの最新動向を聞いた。

CBSスポーツのレジェンドであるKen Aargaard氏(左
から3人目の白髪の方)を迎えたIBC会場(RAI)ツアー
勉強会


初日の朝8時半でレジストレーション待ちの大行列。米
NABに関心が偏る日本だが、欧州IBCは興味ある議論
が多い

「若者を捕まえろ!」
世界共通のテーマ

 在英の知人が英国のメディア事情を「Netflixに加入している友人は多く、人気番組はすぐに話題となる。一気に見るBinge watchという視聴スタイルも当たり前になってきた。スポーツ・ファンはSky SportsやBT Sportの有料サービスを見ている」と話す。また、米国のテレビ視聴動向では、2016年からの1年間で激変があった。14歳〜29歳の若年層でテレビ視聴が前年比−17.8%で38.3%となり、VOD視聴は+21.5%、44.0%となって完全に逆転したのである。週平均のテレビ視聴時間(全体)が26時間38分から14時間31分と大幅に減ったという。

 IBC会場内で開いた本誌ツアーの現地勉強会で、CBSスポーツ EVPのKen Aargaard氏は「テレビを見なくなっている若い層にどう届けるか」という投げかけを繰り返した。Aargaard氏は、スポーツ番組を技術で革新してきたレジェンドで、20回以上のスーパーボウル、5回のMBLワールドシリーズ、6回のウインブルドン、3回のサッカーワールドカップの中継放送を担当している。2016年の第50回のスーパーボウルでは、38台のカメラを駆使したリアルタイム3Dグラフィックスを瞬時に生成するFreeD技術を導入し、激突の瞬間を360度3D映像で表現。新たな映像体験として話題となった。Aargaard氏は「若い視聴者が減る中、テレビのスポーツ中継はわかりやすく、ビジュアルのエンタテインメント性を高め、スポーツの新たな楽しみを提示することが必要だ」と、技術投資の必要性を説いた。

 英国では、BBCが16歳〜34歳をターゲットとした地上デジタル放送の多チャンネル化で2003年に始めた「BBC Three」が、2016年2月からオンラインに切り替えている。実験場として位置付け、年間予算約45億円で運営。8割が長尺番組で、番組SNSを展開。課題は、ネットとSNSで構成する番組の適切な長さやフォーマットの開発だという。どの放送局も「若者を捕まえろ!」というテーマに挑んでいる。

 

絶好のタイミングでCMを流す
「Contextual Moments」のトライ

 英テレビ放送局のChannel 4(Ch 4)やITVは、広告の戦略づくりと、新サービスの創造に熱心だった。個人データを生かしたターゲティングの仕組みづくりである。当然、個人情報を扱うことから、欧州で進むDGPR対応を考えている。

 ITVのオンラインサービスである「ITV-Hub」は、10年前に始まったITV Playerから2015年に変更したもので、名前、郵便番号、生年月日、アドレスを登録してもらう。Ch 4は、視聴者自らに個人登録してもらっており、ネットの「ALL 4」サービスを展開している。幹部は「6年前から視聴者一人一人と向き合うことに取り組んできた」と説明し、そのために「プライバシー・ポリシー」を公開するだけでなく、本人がリサーチパネルから登録を削除することもできると話す。

 Ch 4は早くからCMの効果を高める方策として、個人をターゲットする考えを持ってきた。例えば、CMの映像に視聴者の個人名を出したり、音声で視聴者の名前を呼びかけるという個人にフォーカスした手法や、逆に、広告主が年齢や地域、年収などでターゲティングできるという提案も用意している。今回の訪問で驚いたのは、番組の文脈上で最適なタイミングでCMを出すという「Contextual Moments」という新提案である。番組内容がCMとマッチするタイミングは、マシンラーニングなどの分析による裏付けを用意している。

 こうしたCMのカロリーアップという挑戦が功を奏したデジタルサービス部門の売り上げは、Ch 4全社の収益の1割を占めるようになった、と幹部は胸を張る。ツアーメンバーから「テレビ部門とデジタル部門の2つの営業関係はどうか」という質問に、「1年半前から統合し、約200人の体制で臨んでいる」と答えた。

ITV Hubのオペレーションセンターを見学

CMの流れを止めない
考査機関「クリアキャスト」

 今後、番組コンテンツだけでなく、CM素材も放送波とオンラインで共用化されていく。10年も前からオンラインでCMを扱ってきた英国はどう進めているのか。とりわけCMの考査をどうしているのだろうか。

 英国では10年前から「CLEACAST(クリアキャスト)」というCMの共同考査機関を運用している。ITV、Ch 4、Sky MEDIA、Turnerの4社で設立し、共同運用している。すべてのCMの98.5%が、この機関で考査を受けているという。

 考査という作業を客観化するために、3つの組織と連携している。法的な運用に関わるOfcom(英国情報通信庁)、ルールを規定するCAP(広告慣行委員会)、クライアントなどの申し立てに対応するASA(英広告基準協議会)で、その体制は揺るぎない。2017年の実績は、3万2,400本のスクリプトチェック、6万1,200本の動画素材チェックを示した。1日当たり200本以上にもなる動画チェックは目視だという。

 クリアキャストの共同運用は、コストの無駄を省き、バラツキのない考査の基準、窓口の一元化などによる効率化などのメリットをもたらす。広告会社が扱うCMの63%が複数の局へ展開されている。

 日本の場合、CM考査は放送局ごとに行われ、基準も各局の考え方による。放送波とオンラインの相互流用が広がりつつある中、早晩この各局考査体制は悲鳴を上げるだろう。昨年9月から始まったCM素材のオンライン送稿は、考査も含めた総合的な運用体制へ進化させる必要がある。CM考査が「流れをせき止める」現状が続く。

 

爆発するライブ中継
押し寄せるオンライン視聴

 ロシアで行われたサッカーW杯2018。同時視聴者は970万、ピーク時は23.8Tbps(テラビット)、平均のビットレートは2.74Mbpsという数字をアカマイ テクノロジーズは紹介する。4年前の同大会の同時視聴者500万から見ると倍増である。このスポーツやイベント、コンサートで魅力を発揮するライブ中継はテレビが得意としてきたが、オンラインも関心が高まってきた。eスポーツの中継はオンラインが中心である。

 オンラインのライブ中継で動画広告を挿入する技術として、「テレビのようにスムーズ」にCMを配信できるサーバーサイド広告挿入技術のSSAIに関心が集まる。提案するYoSpaceは「同時アクセスが150万でも自在にCMを挿入できる」と話す。

 また、受信する側のデバイスが日々拡大するが、オンラインでライブ中継のニーズが高まると、端末ごとの差異は許されない。これに対して、ブライトコーブから「OTT FLOW」の提案があった。どの端末も同じタイミングで視聴できる同期配信を実現する。

 ライブ中継で求められる低遅延配信の技術がIBC会場で注目を集めた。HLSのチャンクサイズを小さくして遅延量を5秒〜12秒にする提案をはじめ、新しい規格でCMAFの採用で5秒〜10秒、WebRTCの採用で1秒〜3秒、UDPベースのプロトコルを使って3秒〜5秒である。今後、低遅延化は急速に進むと期待したい。

 

番組コンテンツの流通も
「流れを止めない」提案

 2〜3年前から「なぜ、日本の放送局が参加しないのか」という声が聞こえる。それは、番組コンテンツの相互運用を可能とするマスターファーマットであるIMF(InteroperableMastering Format)を策定する組織であるDPP(Digital Production partnership)のメンバーからだ。IMFの策定づくりにはDPPをはじめ、北米放送協会のNABA、欧州放送連合のEBU、米国映画テレビ技術者協会のSMPTEが協力している。この輪に日本のNHKや民放は入っていない。「日本は8Kを提案しているが、コンテンツ流通をどう考えているのか。まさか、ディスクを想定しているわけではないと思うが」と冗談ともつかぬ指摘もあった。IMFフォーマットによる納品体制は、すでにNetflixで行われている。

 IMFのメリットは多くある。一例を挙げれば、多言語対応として字幕が必要だが、テープ時代は焼き込んでいたために、その都度に対応していた。IMFでは映像、音声、データがそれぞれ別にファイルされるので、1つのマスターデータがあれば、どの言語にも簡単に対応できる。

 さらに、放送コンテンツに特化対応させた「TV-IMF」の議論が進んでいる。販売用、OTT用、そして地域限定用などのバージョンを想定している。フォーマットはProResを利用し、解説放送用の音声やクローズキャプション用の字幕などもある。さらに、CM用IMFマスタリングの議論も進む。

 「流れを止めない」ために、新たな規格も含めて知恵を絞っている。この流れに合流できていない日本という構図が見える。

 

過去の経験に縛られ
流れを止めていないか

 日本の放送技術は大きな価値を生み出してきた。確実で正確、安定した放送の実現である。アナログ放送で確立したこの価値観は、デジタル第一期のアナログシステムのデジタル機器への置き換えでは破綻はなかった。テープからディスクへ媒体が変化しただけで、作業工程はそのまま移行できたからだ。

 ところが、現在の変化はデジタル第二期で、オンライン化であり、クラウド化によって自動化できるという変化を迎えている。そうなると、アナログ放送時代の作法や価値観は、そうした流れを阻むものになっている。日本で唯一成功している放送サービスのオンライン配信であるradikoは、全国約100局のマスターデータを1カ所に集め、エンコードして配信。また、権利上で放送できないCMや番組などのフタかぶせも24/365で自動化している。そのデータチェックに人手は残るが、ほぼ自動化されている。このradikoの実績を正しく評価し、もっと議論し研究すべきだろう。

 放送システムの展望を「流れを止めるな」からまとめたのが下の図「放送システム全体の将来像」である。コンテンツ制作はIPベースとファイル化で流れを止めない議論が進んでいる。視聴者の環境とCMの効果を高める構成もクラウド化などによって流れを止めず、アクティブ展開が見えてきた。

 NHKは、テレビ受信機中心主義から抜け出す。多様なデバイスも放送波とオンライン配信でカバーし、視聴者の自由な選択に対応するという「ダイバースビジョン」を掲げる。そして、視聴スタイルに依存しない統一フォーマットで放送コンテンツを制作するというイメージを示す。欧州はデバイスから解放される「クロスプラットフォーム」というコンセプトで動いている。

 こうしたビジョンを具体化するには、世界で動くコンテンツ流通の新たな規格づくりや枠組みに対して、もっと発信することが必要ではないか。かつてNHKは「ハイビジョン」を掲げ、次世代放送のフォーマットを仕掛けた先駆者であった。その自負を思い出してほしい。さらに言えば、放送業界はIT技術をはじめ、次世代技術やソリューション開発に積極投資をするべきではないか。NHKは受信料を値下げするというが、それだけでいいのだろうか。それをファンドとし、政府や民放も協力して、日本独自の次世代に向けた技術開発を推進する体制づくりも考えたい。

 今回訪問した先々で、放送業界の関係者が口にしたことは、「放送の持つリーチ力に、個人をフォーカスしたダイナミックなサービスであるオンラインの双方ができる」という有利な立ち位置であった。しかし、この有利さも、いつまでも使えるわけではない。若者たちがテレビから遠ざかる状況が進む中、この有利さを生かす時間は、われわれが考えているほど残っていないだろう。月刊ニューメディア アイコン

 

 

放送システム全体の将来像

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